「緑の我が家」、読了
小野不由美のホラーなんですが。
「過ぎる十七の春」もそうだし、特に「屍鬼」を読んでても感じたのは、私にとって小野不由美のホラーは全然ホラーじゃない。怖くないんです。おもしろくないと言ってるんじゃないです。この距離感がうまく説明しづらい…。
「緑の我が家」の舞台はビルに挟まれた陽のささない狭い路地の向こうにある「グリーンホーム」という賃貸マンション。そこに越してきた高校生の主人公はのっけから建物とその周辺に何とも言えないいやな雰囲気を感じ続ける、それが怪異の始まりで、という筋立て。ホラーっ気満々なスタートだし、その後もまんべんなくきちんと恐ろしげでいやなことが起こり続けるんだけど、私は全然怖くない。
小野不由美の文体がきっちりと整然と影なく感じるのです。得体のしれない恐ろしげなものがざわざわした闇の中に潜んでる、割りきれなさ・後味の悪さがないというか。恐ろしかったりやりきれなかったりするのはむしろ生きている人の姿で、怪異そのものは非常に理知的に割りきれる。その理由が悪霊や妖怪(吸血鬼を妖怪と呼んでいいなら)であったとしても、原因がちゃんと提示され、事件はきれいに収束する、そういうすっきり感が私の中の「ホラー」のイメージと合致しないのだろうなあ。
怖いのは幽霊じゃなくて人間の方よ、というのも、ホラーが持つ一つのテーマではあるんだけど。
私にとっての小野不由美のホラーは、サスペンスものみたいな感じかな。主人公達が心情的に追い込まれていきながら、怪異の謎に次第に近づいていく、その過程のドキドキを味わう本です。
「ゴーストハント」もコミックスを三巻まで読んだけど、悪霊わしわし出てくるけど怖くないんだよなー。絵もがんばって不気味に描いてあるのに。
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Comments
初めまして。小野さんのホラー、私も確かにホラーとは言い難いなあと思っていました。
おもしろくないんじゃなくて、怖くない。
その理由を今回きいろさんが整然と述べてくださったことで、非常に私も納得しました。
確かに影がないんですよね。草の生い茂る古い家屋というよりは、新築マンションに草を植えたプランターを持ち込んだ感じ。
文字列の裏でもぞもぞと何かが這い回っている感じがしないんです。
本当は何よりも人が怖いんだとこの整然とした文章で言われても、はあそうですか? としか言いようがないというか。
私は『東京(実際は京の口は日ですが)異聞』でそれを感じました。
ホラーなのかサスペンスなのか妖怪ものなのか、判然としない内に異形の者が出てきてはい、手打ちと。
そこが納得できなかったし怖くなくて、却ってスッキリしませんでした。
GHの漫画は楽しんで読んでます。
Posted by: くるたん | 2005.10.30 06:13 PM
>くるたんさん
初コメントいただいておいて、RESが遅くてすみません。
小野さんのホラーがおもしろくないわけじゃないけど怖くない、という意見に同意してくださる方がいてほっとしました。描写は十分されてるのになぜー?と私も前から思ってまして。
GHのマンガもおもしろくないわけじゃないけど、私は怖くないんです。何か感覚が欠如してるのでしょうか...。
なんというか、卵が腐ったような、納得のいかないイヤさがないのかなと思います>小野さんの文章。伝染病患者を完全隔離の病室に収容して外から見てるというか。
「東京異聞」も確かにくるたんさんがおっしゃるような印象がありました。
この明晰・明瞭な文章が、「十二国記」で王のあり方とか人としての倫理などを語るときには非常になじみがよく、説得力を感じて思わずぐっとくるのだから、作家の筆力というのはむずかしいものだなあと思います。
Posted by: きいろ | 2005.11.07 12:44 AM