「虚無への供物」、読了
去年からたらたら読み続けていたけど、風邪で寝込んだのをいいことに布団の中に持ち込んで強引にゴール!長かった…。
と言いたくなるくらい、途中しんどい時期がありました。事件が派手に全国規模の拡大を見せ、なのに身近で起きる殺人はどこか作り物めいていて、作中作が挿入されて物語の中の事実と虚構がごっちゃになってくるわ、読んでてどこに行きたいねん、この話は?って気分に。出てくる人出てくる人、思わせぶりなことを言うけど核心には触れず、人によってはそのまま退場し、もやもやーんな推論だけがやたらと増殖していく。ミステリやシャンソンや何やらかんやらの蘊蓄をちりばめつつ。
中でも違和感っちゅーか、なんとなく気にくわない気分にさせられたのは、メインの登場人物たちが初手から探偵ごっこに興じていることで。私ども読者には物語の中の殺人は作り事なんだけど、君ら作中人物にとっては実際に起きた「人殺し」なんでしょうが。それも、全く知らない人ならともかく、藍ちゃんにとっては被害者はいとこの兄さんだったりするわけで、アイヌの呪いとか氷沼家に伝わる宝石やバラの因縁とか言ってるバヤイか、君たちはあ?っといらだたしい気分に。
特に奈々村久生ちゃん、キミ、なんでそんなに自信ありげにむちゃくちゃなことを…。自分の説のナニさを棚に上げて、他の人をやりこめるかなあ。三島由紀夫せんせーは貴女のことをお好きだったそうだけど、わたくし的にはどうかと…。
ともかく。ふつーのミステリとして読もうとするととっちらかってる感もあって、読み通すのはなかなかしんどかったです。
しかし、よれよれ終章に到達するとそれまでの「むぅうー」感が一気に解消。引っかかっていたあれやらこれやらも、そう言う意図合ってのことかと腑に落ちてきます。なるほど、アンチミステリなわけですね。作者がこうしか書けなかった時代がもう40年前なのかと思うとなんとも。今はもっと暗澹たる気分になる世の中になってます…。
私たちは紛れもなく、絶対に犯人たり得ない事件の犯人になる宿命を背負っておりますよ。
「マヂック・オペラ」の作者インタビューで、山田正紀も「虚無への供物」の影響を語ってました。ちょこっと検索かけてみても、読書好きで印象に残る作品としてこれを上げてる人、多いなあ。今読むと、アナクロっぽいとか文体古めかしいとか読むのに困難を憶えるところも多々ありますが、ここから派生していった作品群の基礎知識としても読んで無駄はないかも。すっきりすかっとオチた感がないから、読み手を選びそうですが。
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