2010.01.08

「時の"風"に吹かれて」、読了

時の“風”に吹かれて (光文社文庫)

 いろんなアンソロジーに発表した短編を再度まとめた本。
 なので、一冊の本としてのまとまりはよくない。想定読者層もばらばらだし。奇妙な味の物語多目? なので、理屈っぽい背景がほしい向きには食い足りない作品が多いと思う。
 そういう意味では、ある程度梶尾さんの作品を読みつけた人の本とも言える。初心者はハヤカワあたりの作品のトーンのそろったアンソロジーから手にとっていただきたい。でなかったら、短編集としてまとまりのいい、梶尾さんの十八番でもあるタイムトラベルロマンスものの「クロノスジョウンターの伝説」とか。

クロノス・ジョウンターの伝説∞インフィニティ (ソノラマノベルス)

 しかし、しょっぱなが「時の風に吹かれて」なのはずるい。全編こういうトーンでいくのかと思っちゃうじゃないか。

 こういう書き方をするということは、実は一冊の本としてはあんまり評価が高くないってことなのね。梶尾さんの本なら、もっと読むべきいい本がたくさんあります。
 ただ、個人的には「鉄腕アトム メルモ因子の巻」が読めたのは収穫でした。これについては別項。

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2009.12.17

「世界カワイイ革命」、読了

世界カワイイ革命 (PHP新書)

 今、世界中で日本の「カワイイ」が大人気!
 作者が実際に体験した世界各地の「カワイイ」好きの若者たち、彼らの参加するイベントについてをレポートした本。
 読んでてちょっと書き方がくどいなーと思った。日本人が気づいていない、各地の若者たちの「カワイイ」愛を伝えたい! という熱気の成せる技なんだろうけど。
 アニメやマンガをとば口に、ネットを情報源として日本のファッション、特にカワイイものに熱狂するフランスやイタリアやタイや韓国の娘さんたち。日本人から見れば、金髪碧眼にばんきゅっぼーんなスタイルを持つ欧米人がロリータな服を着たら日本人なんか眼じゃないわ、と思うけど、現地の人たちにしてみれば、日本発のファッションは日本人の外見を持って着てこそオリジナルのようで、だから日本の娘さんが着ているのが一番「カワイイ」のであり憧れの対象なんだそうです。
 …わからん。しかし、ファッションとはそういうものなのかもしれん。
 彼女たち(もしくは彼たち)はロリータ服や制服を着ると本当の自分になれた気がするといい、「ロリータは私の生き方なのです」とまで言ったりする。服装が人のポリシーを担う部分があるのはわからんでもないが、そこまでを口にする娘さんがこんなにいるのもなんだか。思春期とか若い頃はいろいろと煮詰まったり現状が窮屈だったり不満を感じたりするものだけども、自国にない、ネットの向こうの国の文化にその鬱屈を打破するものを見ているのだろうか。
 当のその国に住むものとしては、過大な期待をされてもなー、と恐縮してしまいます。
 文化というのは片思いであるなあ。日本の娘の学生さんは未だにルイ・ヴィトンのサイフなど持ってたりしますよ。

 日本以外の国では成人した女性が子どもっぽい「カワイイ」ものを好むのははばかられるところがあったと聞いたことがあります。アメリカなんかはセクシーな女っぽさを身につけてこそ大人の女、みたいな。私のようにエエ年こいてキャラグッズに眼がないなんて、許されぬ。
 でも、やっぱ可愛いものはいくつになってもかわいいよねっ。
 と言ってもいいんだ、という開放感を日本の「カワイイ」から知ったというのはあるかもしれません。今や各地のセレブがキティちゃんグッズ好きを口にするらしいし。もっとも、「タブーに反抗できる私」を意識してのことかもしれず、可愛いものを好むことが世界的に許される雰囲気ができたらすっかり廃れるかもしれないけども。

 私は一般人なので↑のような読み方をしたけども、娘文化に疎いビジネスマンの皆さんはいろいろと学ぶところがあるかもしれません。
 ギャル文化なんてけっ、というか、よくわからんもんね、的な感覚のおじさまたちは、カワイイも捨てたもんじゃない、どころでなく、輸出兵器として旬な時期にもっとちゃんと評価した方がいいんだ、みたいな。著者が言うように、資金力の乏しいカワイイ系ファッションの担い手たちにもっと力を貸して海外進出の後押しをしてあげよう、とか。

 ただ、サブカル系(今や死語?)が好きな身としては、官とか資本とかが表舞台に引っ張り上げちゃうと、そういうものの味わいって失われるような気がしてしまうんですよね。韓国や中国がアニメやアイドルを国の輸出産業としてバックアップしてると聞くと違和感を感じるのもそのせいで。
 むずかしいところです。

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2009.12.07

「ゼロの焦点」、読了

 あのー。新潮文庫版を読んだんですが、この解説サイアクですから。買った人は絶対読んじゃダメ。終盤までのざっくりした展開、特にミステリとしてのキー部分がほぼ暴露されてます。何考えてんだよー。私はわりと解説を先に読んじゃう質ですが、今回はいやーな予感がしたのでざっと眺めて読むの止めてました。よかった、避けといて。平野謙なる人の解説だったら即回避をオススメします。

 この話は警察関係者が大きく関与したり颯爽と名探偵が現れたりしないので、最後まで読んでも「これはこうだったのだー」と作者が正解を出したりしません。事態の真相についても細部はヒロインの推測でしかないというオチですが、これはがっちがちのミステリとして読む話じゃないってことでしょう。
 肝心の謎部分も、これがさすが二時間サスペンスの元祖とイッセー尾形氏が先日のNHKBSの松本清張特集番組で言ったように、劣化コピーな話がなんぼでも出てきてる昨今なもんで、行方不明のダンナの前歴が出てきたあたりでだいたいの犯人と動機が想像できてしまうのです。で、やっぱり想像通りの結末であったと。
 じゃあ、つまんない小説だったかというと、そんなことはなく。時代が半世紀くらい前なんで価値観とか生活感とかが変わってる部分はあるものの、ヒロインの心象はそれなりに共感できる。あと、戦後間もない、私の知らない時代の空気を追体験することもできる。50年でいろんなものが変わっちゃうんだな、というのと、人の心情なんてのはなかなか変わらないんだな、というのを両方読み取ることができます。古い小説を読むと感覚の違いばかり気になることがあるけど、「ゼロの焦点」はその辺が程よくて、さすが松本清張巧の技だなーと思いました。<えらそうですか。
 いやー、奥さん病のときに作った愛人を死後後添いに入れても、このころはあんまり驚いたり不実だと思ったりしないんだなー(^^;)。

 以下、オチに触れる感想とか。
 映画でも出てくる女性三人をメイン押ししているだけあって、ヒロインだけでなく映画で中谷美紀が演じている金沢の地元企業の社長夫人、木村多江演じるその会社の受付嬢と、みなさんそれぞれに芯のあるキャラです。受付嬢は、実は思ったより出番少ないんだけど、曾根さんにかけた情の深さとかかつて世話になった、振り返りたくない過去に関わる人にちゃんとお礼状を出していたりとか、要所要所で人柄をきっちり押さえてある。社長夫人は、今時尺度からすると結婚の経緯にちょっと「?」を感じはするものの(^^;)、知的で気が利く魅力的な女性でヒロインも好感を抱いている。
 でも、ヒロイン以外の二人の女性は、実は戦後米軍兵相手の娼婦をしていた時期があるわけで。
 そして、その過去が犯罪のきっかけになるわけだけど。
 松本清張は、二人のことを堕ちた女だとは書いてない。たまたま時代の巡り合わせが彼女たちをそういう境遇に置いたのであって、今は違う道を歩んでいるのなら過去は問うべきではないと言っている。(この辺の立ち位置はヒロインが正月に見る討論番組、という形で提示されていると思う)
 けれども、当事者たちにとってそれは人を殺しても隠蔽したい過去になってしまう。なぜか。

 新潮文庫版の問題多い解説の中にこんな一文がある。

 ただ良人がかつてパンパンとよばれた女性と一年以上にわたって同棲したことや、自分がその女とみくらべられたことに対する女主人公の潔癖な嫌悪感が、いささかも描かれていないのは片手落ちだろう。

 ね。こんな人がいるから、あの人は人殺しをしなくちゃならなくなっちゃうんです。
 この辺の、世間の差別や偏見が人を犯罪に向かわせるという構造は「砂の器」とかと同じなのですね。
 物悲しいお話です。


 映画の禎子さんの夫役が西島秀俊なのが、みょーに説得力あるような気がする(笑)。
 本多くんの好意が単なる善意、というだけじゃないような、と思い出したら、禎子さんも距離の取り方に悩んだりして、その辺もリアル。
 そんなに一生懸命やったら死亡フラグが立っちゃうよ! と考えてる自分をいかがなものかと思った。

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2009.11.24

地獄ボタンが透けて見えました

ゼロの焦点 (新潮文庫)

 「深海のYrr」の終わりが見えてきていたので、「BOOK OFF」にて後がまを拾ってきました。そのうちの一冊は松本清張です。今映画をやってる「ゼロの焦点」が「点と線」に並ぶ代表作と聞いて選んでみました。
 松本清張は昔々何冊か、ミステリとして読んだ記憶があるけど、それっきりなのです。むしろ映画やドラマでなじんだ感じ。「濃ゆいっ」て印象があります。
 今月、NHKの「知る楽 こだわり人物伝」で取り上げてるのですが、なんとみうらじゅんが清張を語る回があったので見まして。
 おもしろい。視点が。というので、俄然清張読んでみたくなりまして。
 こつこつ地道にやってきた人が安泰を手に入れてふと立ち止まったとき、人生の地獄ボタンが見える。清張の作品って、それを押しちゃった人の話なんだ、みたいなことを言ってました。守るものができたが故に足を踏み外していく、みたいな。だから、歳とって読むと全然見え方が違う。ああ、オレの前にもボタンがあるよ、押しちゃったよ、って瞬間があるからぞっとする。
 みうらさんによると、清張はホラー小説なんだそうです。

 「ゼロの焦点」の冒頭10ページくらいを読んでみました。
 …こえー。清張こえー、まぢこえー。
 ヒロイン(映画では広末がやってる)が見合いでかなり年上の男と結婚して、新婚旅行に行って、二日めにそこの名所を回ろうと車で移動してて、というあたりまで読んだんですが、このヒロインの心情が! さして面識のない男と見合いで夫婦になっていく過程の心理がひーっていうほどリアルで怖かった。おっさん、なんでこのワクワクではないなりゆきと弛みで夫婦ができていく過程がこんなにわかるのよっ、みたいな。
 若いときは好き好きでらぶらぶで大盛り上がりっな恋愛とか結婚しか見えないわけですが、年取るとそれ以外の心境や関係も見えてきます。ちょっとした倦怠とか妥協とか、日常のなれ合いが作る関係性。理想より必要を選んで生きてったりとか。それはまー、人間毎日をドラマティックに過ごすのはしんどいので、必要なダレだと思うのです。
 この辺は十代ではとても読み取れない。清張、大人になって読まないとわからんところがたくさんあるな。
 時代とか価値観とか、書かれた頃とは変わったこともずいぶんあるけど、それでも共感できるところってあるものです。国民的作家と言われるのもむべなるかな。

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「深海のYrr」、読了

深海のYrr 〈中〉  (ハヤカワ文庫 NV シ 25-2)

 長かった…。<一冊500P越え×3冊。
 そして、うなぎは出なかった。<イールってうなぎだと思い込んでいた。綴りが違います。
 いわゆるハリウッドスペクタクルっぽい、世界規模というか世界の海で人類を脅かす事件が多発! の内容を説明するのにそれなりにページが必要で、そこそこ数が多い上に個々に事情を抱えるメインキャラのバックグラウンドをそれなりに書き込んであるから長い。長いよー。てーか、アナワクくんのトラウマってあんなに書き込む必要があったのか、よくわからんよ…。
 キャラの事情が細かく書かれてるって言っても、掘り方が今時のラノベとかとは全く傾向が違うし、そもそもツンデレの美少女とか出ないし。メインが科学者と軍人だから、だいたい年齢はアッパー気味です。もっとも、ラノベだったら天才美少女科学者とかツン系の軍人少女とか出してくるだろうが。問題はヘタレで凡人の少年をどうやって主人公に送りこむか、か。
 結構ハデハデな活劇ものなので、特に中巻の半ばからはさくさく読んでいけると思います。ハリウッドが映画化権を買ったというのもよくわかる。でも、この話って実はアメリカ悪役じゃない? 長いから中身圧縮されるのとキャラ整理されるのは確実だけど、アメリカが悪役のままになるんだか。<ならないと思ってます。
 上巻をなんとか乗り越えて、続きを読みたいと思えれば、なかなか楽しめるエンタメ小説かと。ラストあたりのあの人とかあの人とかの下りはちょっとあっさりめに感じたけど、今時の日本の小説の傾向に慣れてるからかも。それから、欧米の人たちの日本の捕鯨に対する感覚にはちょっともにゃった。最早捕鯨は感情論の領域に行ってるからなあ…。
 エコなんとかっていうふれこみは、そんなに真に受けなくてもいいと思われ。あと、新鮮な海産物食べるのが好きな人は、読んでる間悲しくなるかもしれない。

深海のYrr 〈下〉  (ハヤカワ文庫 NV シ 25-3)

 ネタばれになるのでアレですが(なので、読みたい人は以下を飛ばすこと)、

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2009.10.13

世界は分けてもわからない」、読了

世界は分けてもわからない (講談社現代新書)

 古本屋で買った「深海のYrr」の中・下巻をどうしよう…と悩んでいる間に読む。福岡先生の大ヒット新書「生物と無生物のあいだ」は未読なので、初福岡。
 なせいか、最初、読み出したときはちょっと当惑した。いわゆる科学系新書とは構成というか文体というかが違う。なんか、エッセイっぽいんですけど…。
 と思ったら、元になった雑誌連載があった模様。科学啓蒙本としての書き下ろしじゃないからこうなのか、元からこういうアプローチをする方なのか、何分初読みの著作なのでよくわかりません。

 内容は、まさにタイトル通り。森羅万象、人間の周囲にある全ては部分だけ見たって本質はわからない。そもそも分けようがない。だって、区切りなんてないんだから。
 でも、人の脳は物を理解するために区切れないものを区切り、止まっていないものを止めて、なんとか「理解」できる形にしようとする。ヒトが認識できる形に置き換えようとする。それが、見たいものしか見られないという事態を引き起こす。私たちはわかりたいと切望する何かをわかりたいが故に、本来分けようのないものを無理矢理分けて結局実態から遠ざかっているのだなー。
 しかも、ようやく発見したものをさらに突き詰めて研究していくと、一つの事態が一つの原因から作り出されているわけではなかったりして、調べれば調べるほどピントがぼやけて混沌としていくというのがなんだかなあ。人間の認識力というか、脳の世界の把握の仕方って、世界の理解には向かないところがたくさんある模様。
 でも、知りたい、わかりたい。これって片思いみたいよね。きっと世界の真の姿は、人間には永遠に手が届かないものなんでしょう。

 って、科学系の本を読んだ感想としてはあまりに叙情的というか、感覚的というか、科学とはほど遠いぼんやりぶりですまんという感じ。でも、専門分野のお話はとても理解できたとは言い難く、なので不用意なことは言えません。文章もがちがち科学系というより、最初に書いたようにエッセイっぽいから、こういう読み方でも許しておくれ…。
 門外漢でもおもしろいです。はっとさせられる。そして、私たちには結局「分ける」という世界へのアプローチ方法しかなく、蟷螂の斧で世界に挑んでいくしかない。それはむなしい戦いかもしれないけど、でも人間はずっと斧を手放さないと思うのです。


深海のYrr 〈上〉  (ハヤカワ文庫 NV シ 25-1)

 ちなみに「深海のYrr」の残り二冊はamazon出店のイーブックオフで買いました。二冊で送料込み682円だったっけ。やすっ。本来の価格一冊分以下です。(↑からamazonに行くと、中古価格1円からって出るはず)
 こんなの新刊の隣りに並べてあったら、この不況のご時世、そりゃーそっちに手が伸びますって。
 「深海のYrr」は、なんちゅーか。ちょーおもしろいというわけではないけど(<えらそう)、「ハイドゥナン」よりは好みかなあ…。「ハイドゥナン」はどこかスビリチュアル系みたいなところがどうしても取っつき悪くて。通勤時間だけで読んでたら中下巻で年内持ちそうですよ。

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2009.07.18

「裁判長!ここは懲役4年でどうすか」、読了

裁判長!ここは懲役4年でどうすか (文春文庫)

 ブックオフの100円棚シリーズ、第一期完結。勝手に。
 正直、人の不幸をワイドショーみたいに覗き見していく雰囲気の書き口が「ちょっとなー」で、私の価値観には合わない本だったんだけど、でも、ここに出てくる被告の人も被害者の人もなんというか…。「どうしてこんな人生に!?」みたいな人が続出してて、にも関わらずどれもそれほど注目されてもいない事件だったりで、いったい人間社会ってどーなってんだと。日本中でこのくらいの事件はあちこち頻出してるのかしらと思わず微苦笑、だといいんだけど、頭を抱えてしまうような人々も多々。
 ちょっとしたきっかけからどんどん人生転落していってしまう人。離婚調停から見える夫婦像。だめんずから逃れられない女の人。そういう「ああ、ありそう…」って事件から、なんだってこんな事件が成立してしまうのか? と不可解でならん加害者と協力者と被害者の関係とか、裁判所には謎が渦巻いていました。
 中でも痴漢とか買売春とかその手の事件の犯人にはウンザリ。それも二犯三犯と罪を重ねて改心しそうもない連中には、本当に読んでて腹が立つというかイライラさせられまくり。著者は男性だから性犯罪事件はわりと他人事というか、好奇心先立てて接することができるようだけど、老いても女性の身としてはとても距離を置いては読めません。
 性犯罪者で三犯越えるやつはみんな去勢してしまえっ。
 法律でそう決めろ、こいつらはまたやらかすに決まってるんだからよっ。
 と、まぢで思います。
 私が性犯罪事件で裁判員になったら、常に一番重い刑を要求すること間違いなしです。そんな人を選んでよいものでしょうか。

 裁判員制度が急激に注目されたせいでめちゃくちゃ売れた本らしく、おかげでけっこう100円棚に出ています。確かに裁判所の雰囲気を覗き見するにはいい感じです。大きくない事件の裁判をさくっと大雑把に知りたい方はどうぞ。でも、女性で無駄に腹を立てたくない人にはお勧めしづらく。

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2009.02.20

「司政官」、読了

司政官 全短編 (創元SF文庫)

 あんだけいろいろ言いましたが(笑)、二ヶ月かけてほぼ通勤時間のみで読み切りました。
 読み終えて思いましたが、この本、読み出しがつらくてしんどかったのは収録一話目が「長い暁」だからなんじゃないかと。今までにシリーズを何話か読んでた人ならすっと世界観に入っていけるんでしょうが、初読の私には司政官としての訓練を積んだせいで感情の起伏に乏しい主人公(司政官は感情的であってはならない)、制度の初期でたいした権限もないために淡々と事態にあたるしかないしかない立場、などのシリーズのポジション的な関係で話に入りにくくてならず、「これは読み通せないかもしれん…」と弱音を吐く羽目になった気がします。事件はあるけど盛り上がらん、というか。その後、「照り返しの丘」を越え、「炎と花びら」のあたりでなんとか世界観に同調できて、後半は結構おもしろく読めました。
 話的には全然「おもしろい」というタイプの内容じゃないけど。
 これはなんというか、切ない話です。官僚的制度という「理想」という言葉とはどうにもなじみ悪げなものの中にあって、現住生命体と植民者の間に立って「植民世界の発展と先住種族との融和を図りつつ(wikiより引用)」惑星統治を進めるためのプロフェッショナルとして育成された司政官たち。という設定がもう、初手から主人公たちに矛盾と破綻を約束しているわけで。彼ら個人個人は優秀でまじめで「司政官」という役職に理想を持っているし、その立場を得るまでに長い研修と厳しい選抜を乗り越えても来ている。それだけに、初期は導入されたばかりの制度故に任務を遂行しようにも現地を統括している軍隊に軽んじられ、地球人類とは全く違う現住生命体との融和しようもない生命体としてのあり方と葛藤し、やがては自由と権利を主張する植民者や現住民族といつまでも既得権益を離したくない中央機構との間で板挟みになり権威を失墜していく彼らの日々は、なんともやるせなくて切ないばかりなんである。
 「長い暁」の、司政官としてできること、やるべきことが見えていながらも、実績のないポジション故に一歩引いた立場で事態にあたるしかないじれったさ。
 「照り返しの丘」の、滅びた知的生命体の残した機械たちと自分の部下であるはずのロボットたちが築いていく信頼関係の中で感じる疎外感。任地を転々とする司政官としての限界。
 「炎と花びら」の、どれほど共感を持とうとも、結局は人類とは違う異星の生命体との間に横たわる越えようもなく分かち合いようもない感覚や価値観への諦念。
 「遥かなる真昼」の、植民者と現住生命体との間の軋轢に苦慮と、劣悪な任地の環境の中で見出した現住種族との交流を失って味わう挫折感。
 「遺跡の風」では、すでに司政官は権威を失いつつあり、中央省庁からその仕事ぶりをチェックする巡察官なるものを派遣される身の上になっている。司政官候補生としてやってきた人材の劣悪ぶりを嘆くことにも。
 そして、「限界のヤヌス」では、ついに植民者にも現住生命体にも反旗を翻されてしまう司政官。その渦中にあっても、彼は司政官としての立場を貫こうとして…。
 ホントに最後まで報われないというか、たいへんなばっかりで達成感とか自分の選んだ仕事での満足感とかあるのかなあ…、と心配になる主人公たち。こんなに一生懸命仕事してるのに。てゆーか、このシリーズは仕事してる人の方がしみじみと読める感じがします。学生だと彼らの悲哀は今ひとつ共感しづらいかも。仕事ってのは、才能あっても偉くても真摯に取り組むと難題満載だよなあ。(という点では、ラノベとかとは対極に位置する小説かもしらん。表立った恋愛もほぼないし)
 読み始めの印象からは大きく変わって好感度が上がった本なんですが、この先に続くシリーズの大長編二作を読みたいかと言うと。うーん…。だって、もうこの先、司政官たちにはいいことは一つも起きないんですよ、どう考えても。その立場故の苦悩とか権威失墜した官僚だからこその仕事ぶりとかが読みどころなのかもですが、なにせ長い。つらくしんどいのがわかっていてそれに手を出すには、おばさん、根性が無くなりました。すまぬ…。

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2009.01.26

そこにルールがあるかぎり

 今月の「本の雑誌」で紹介されていたのがこの本↓。

そこにシワがあるから──エクストリーム・アイロニング奮闘記

 何してるのかわからないと意味不明なので、あえてでかい写真で。
 見た通り、山でジャンプしながらアイロンがけしている。極限のアウトドア環境でいかに美しくアイロンがけをするかを競う「エクストリーム・アイロニング」という競技なんだそうである。去年はドイツで第一回の世界大会が行われたという。
 へえー。へえー。へえー。
 エアギターとかエア新書とか、こんなのもありかよ? と思ったものはたくさんありますが(エア新書はちとマイナーか)、これはなんというか、アウトドアとアイロンがけというあまりの異種競技な組み合わせに唖然。こんな組み合わせ、いったい誰が思いついたんだろう。(十年ほど前にイギリスで、らしい。イギリスというあたりがミソな感じ)
 しかもこの本、早川なんてシブい出版社が出してるだけあって(?)、けしてイロものとしててはなく、真摯に競技に取り組んでいる著者の姿に打たれ、「エクストリーム・アイロニング」が単なるお笑いの種のように扱われず正しく普及することを祈ってしまうくらいの熱い内容らしい。
 確かに、そもそもアイロンが重いものだから、興味半分で半端にやろうとしたらケガすること確実。それなりに鍛錬しないと行けないようなアウトドアな場所でやるとなれば、さらに危険度アップ。エアギターのように「ちょっと試しに」宴会芸気分で手を出せるもんじゃない。本気でジョークを極めるつもりでないとやれなさそう。
 この本の著者がやっている「エクストリーム・アイロニング」の日本公式ページには「エクストリームアイロニングは危険です。むやみに真似したりすると大きな怪我に繋がります。我々は鍛えているからこそ出来るのです。むやみに真似はしないようお願いします」と書かれているけど、ほんとにそうでしょう。だって、アイロン投げたりしてるもん。
 私のように日々のアイロンがけすら手抜きまっしぐらの人間は、アウトドア環境ではなく普通のお家でちゃんとアイロンをかけることから始めなければならないですが(涙)。

 ちなみに「エア新書」はこれ↓。

エア新書―発想力と企画力が身につく“爆笑脳トレ” (学研新書)

 例によって「デイリーポータルZ」の記事で知りました。こんなん簡単にできるじゃん! と思ってしまいますが、見せて人に「ありそげ」と言わせるものを作るとなるとむずかしそう。外から見ていかにアホらしそうであっても、本気で取り組んだら何でもたいへんなのよね…。
 「エア新書」は作れるサイトがあるので、いいネタがあったらチャレンジしてみてください。

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2009.01.23

そぼくなぎもん

 「せめてこれだけ」で疑問を提示しましたので、@nifty投票を使ってアンケートを募ってみる。期間は一か月くらい?
 読んだのはオリジナル翻訳でも子ども向き短縮版でもおっけーです。

 一度に六設問しか作れないんだとか。ぶーぶー。
 二作組み合わせ用をもう一つ作りました。

 が、いったん削除。

 回答しないと集計状態が見られない模様。こっちに選択肢がない人はつまらないと思うので、新たに「上記アンケートで回答済み」を追加しました↓。すみませんが、二作読みましたで回答してくださった方はもう一回ぽちっていただけますか?

 しばらく記事の一番上に置いてみます。

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